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静岡地方裁判所浜松支部 昭和39年(む)104号 判決

被告人 後藤喜代司

決  定

(被告人氏名略)

右被告人に対する昭和三九年(わ)第一六一号公職選挙法違反事件につき昭和三九年七月二七日静岡地方裁判所浜松支部裁判官植村秀三がなした裁判官忌避申立却下命令に対し申立人である主任弁護人井上広治より適法な準抗告がなされたので当裁判所は左のとおり決定する。

主文

本件準抗告はこれを棄却する。

理由

一  本件準抗告申立の理由の要旨は本件記録添付の準抗告申立書記載のとおりであるのでここに引用する。

二  よつて本件忌避申立の適否につき按ずるに、

(一)  本件記録及び昭和三九年(わ)第一六一号公職選挙法違反被告事件記録によれば、被告人後藤喜代司は昭和三九年五月一五日公職選挙法違反容疑により逮捕され、同月一八日勾留された上、同年六月六日静岡地方裁判所浜松支部に起訴されたこと、右被告事件は同裁判所同支部植村裁判官係に係属し、同年六月二七日に第一回公判期日が開かれ第二回公判期日は同年七月七日、第三回公判期日は同月一五日、第四回公判期日は同月二二日と審理が進められ、第四回公判期日には検察官並びに弁護人申請の証拠調は、全て終了したこと、右第四回公判期日終了後である同月二六日被告人は弁護人井上広治を選任し、同弁護人は同月二七日付で、担当裁判官植村秀三に対し、不公平な裁判をする虞があることを理由として裁判官忌避の申立をなしたところ、同裁判官は刑事訴訟法第二四条第一項第二項により同日右申立を却下したことが明らかである。

(二)  そこで、右事実によれば右申立人兼主任弁護人井上広治の裁判官忌避申立は刑事訴訟法第二二条本文にいわゆる事件についての請求又は陳述をなした後に行なわれたものであることが明らかである。而して被告人及び弁護人大石隆久は第一回公判期日は勿論のこと、毎回公判期日に出頭して審理を受けたことは前記第一六一号事件記録により明らかであるから被告人が本件忌避申立までに忌避の原因の存することを知らなかつたと認めることはできず、忌避の原因が被告人の事件についての請求又は陳述をした後に生じたことの認められない本件においては既に被告人の有する裁判官忌避申立権は消滅したものというべく、被告人の明示した意思に反しない限度において独立して行使することのできる代理権の一種である弁護人の忌避申立権も被告人の忌避申立権が消滅すると同時に又当然に消滅したものといわなければならない。なお申立人弁護人井上広治が被告人の事件についての請求又は陳述をなした後に選任されたことは前掲第一六一号事件記録により明らかであるが、忌避申立権消滅に関する右理論はこれにより消長をきたすものではないと解する。

(三)  果して然らば、本件忌避申立は既に忌避申立権消滅後になされた時期に遅れた申立であるから、申立人主張の忌避原因の有無につき判断するまでもなく、その失当であること明らかであるから、却下を免れないものであるところ、これと結論において同趣旨に出た原決定は結局相当である。

三  以上述べたところにより明らかなごとく、本件準抗告の申立は理由がないから刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 元岡道雄 片桐英才 鵜沢秀行)

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